クク概論
Cucco

CareleSmithひとみ
作成 修正

このページでは、イタリアのカードであるククカード(Cucco / Cuucù)について紹介します。 アークライト版ククカードのルールブック、 http://kusabazyun.banjoyugi.net/Home/reproductioned/history/cuccu-f http://kusabazyun.banjoyugi.net/Home/reproductioned/history/cuccu http://www.asahi-net.or.jp/~rp9h-tkhs/cucu.htmpagat.comなどを参考にしています。

将来、このページではククカードから派生した様々なカード類を紹介したいと思っていますが、 現在知識不足で記述するにまで至りません。

カードの構成

世界にはざまざまなカードゲームがあります。 そして、そのカードゲームを遊ぶために、たくさんの種類のカードが開発されてきました。 開発された多くのカードでは同じような構造をしています。 それは、カードがいくつかのスート(suits)に分けられて、そしてそのスートの中で、 カードがランク(rank)に分けられるという構造です。 スートは共通するマークなどで表されます。 例えばトランプならば、 のマークで分類される4つのスートがあります。 花札なら、季節の草木で12のスートにカードが分類されています。 麻雀牌なら、索子、万子、筒子がスートにあたります。

では、ククカードはどのような構造になっているのでしょうか。 実は、ククカードはカードに共通するマークがなく、スートがないカードです。

ククカードの構成
数字イラストカードに書かれている文字
15XVククCucco
14XIV人間Hai Pigliato Bragon
13XIIISalta
12XIIGnao
11XIFermatevi Alquanto
10X
9IX
8VIII
7VII
6VI
5V
4IV
3III
2II
1I
0ONulla
(-1)バケツSecchia Meno Di Nulla
(-2)お面Mascherone Manco Di Secchia
(-3)ライオンLeone
(-4)マットMatto

上の表に示したカード20枚が、それぞれ2枚ずつあって、計40枚で1つのククのデッキとなってます。 しかし、この40枚のデッキは、現在日本でスタンダードになっているククデッキの構成であって、 もともとのククカードがどのような形をしていたかは不明です。

絵札は、ローマ数字の書かれたものが5枚あります。 15(XV)はカッコウの絵が、14(XIV)には花を持った男の絵が、13(XIII)は馬、12(XII)は猫、11(XI)は家の絵が描かれています。 また、数字の書かれてない絵札が3枚あり、桶の絵、鬼か悪魔の顔のよう絵、道化師の絵がそれぞれ書かれています。 またそれとは別にライオンが書かれているカードもあります。 ライオンのカードについては後で説明します。

数札は10(X)から0(O)の11枚があります。 ゲームによっては0を絵札扱いすることがありますが、これは数札と絵札の枚数を、どちらも10枚にするためです。

現在では40枚の構成が一般的ですが、ある資料では数札10種、絵札9種の合計19種が各2枚ずつ、 計38枚あると解説されているようです。以下はアークライト版ククの説明書(高橋浩徳 著)からの引用です。 なお、注釈は私ひとみが付け加えたものです。

現在、私が持っているものは、発行元とおぼしき箇所にSolleoneと書かれたものと Masenghiniと書かれたものの2種類です。 前者は1842年発売の復刻版、後者は1876年の発売とあります。 前者には前述した19種38枚(注釈: ライオン以外の19種38枚のことです)の他に ライオンの絵が描かれたカードが1枚、後者には2枚入っています。 このカードでは、クク、ライオンのカードは他の札のような飾りがありません。 他のものは2枚ずつあるのにこれだけが1枚。これをどう解釈するかです。

私が考えるには、会社の名称らしきSolleone(太陽 + 獅子?)ですが ライオンのカードはゲーム用のカードではなく、 単に会社名のカードとして入っているだけなのではないでしょうか。 現在でもトランプではスペードのエースに会社名を入れたり、 花札であれば桐のカス札に会社名を入れたりするケースがありますが、 ゲーム札とは別に会社の名前の札をつけたのではないでしょうか。 (注釈: 現在市販されているトランプでも、 宣伝用のカードがトランプのカードと別につけられているものがあります) ゲームの札とすれば2枚一組になっているので2枚あっても良さそうなのです。 それがMasenghiniになって2枚になったのは、 製作者がSolleoneのライオンのカードをゲーム用のカードと勘違いしたのか、 ライオンを含めたほうが良いと思ったのか、 新しい遊び方のために必要だったか、それは分かりません。 ともかくもMasenghini版ではライオンも2枚となってます。 このため計40枚と言われるようになったのでしょう。 そしてMasenghini版には絵札10種、数札10種の2スーツによる新い遊び方が添えられています。

ここにあるように、少なくともライオンのカードは、後になってから付け加えられたものであると考えられます。 遊び方によってライオンのランクが異なることも、ライオンが後で付け加えられたことを示すものでしょう。 ライオンのカードが最初からあるのならば、もっと高いランクのカードにいなっていると思うのですがどうでしょうか。

歴史

ククカードはイタリア発祥ですが、ゲームとしてはフランス発祥であると考えられています。 17世紀の、古いフランスの書籍にククというカードゲームが紹介されていて、 その遊び方がククカードの代表的な遊び方である、カンビオに似ているからです。 この遊びは専用のカードを使う遊びではなく、トランプの遊び方の一つでありました。 この遊び方がイタリアに輸入されて、専用のカードが作られたのがククカードだと考えられています。 しかし、絵札や特殊な効果がどのようにしてできたのかはよくわかっていません。 また、現在トランプで遊ばれている遊びで、ランターゴーラウンドというものがありますが、 これもカンビオと似たようなルールで、これもフランスのククが祖先であると思われています。

さらに、ククカードはイタリアから国境を越えて、ドイツを通して スカンジナビア半島まで伝播しました。 そしてそれぞれの地域で独自のカードが作られて行きました。 ドイツのヘクセン(Hexenspiel)、 オーストリアやハンガリーのキトリ、 スウェーデンのシッレ(kille)、 デンマークのヒップ(hypp)、 デンマークやノルウェーのニャブ(Gnav)などは、 ククカードと構成や遊び方が似ており、 ククカードが伝わって作られたものと考えられています。 しかし残念ながら、現在ではその多くが失われてしまったか、ほとんど失われている状況です。

ここに、上に述べたいくつかの地方札について、構成がどのようになっているか紹介します。 カードの欄で、左側に書いてあるのはカードに描かれている絵で、右に書かれているのはカードに書かれている文字です。 実際のカードを見たことはないので、不正確な情報を含むかもしれません。

クク系統のカードの構成
地域 イタリア バイエルン、オーストリア デンマーク、ノルウェー スウェーデン
名前 クク(Cucco /Cuucù) ヘクセン(Hexenspiel) ニャブ(Gnav) シッレ(kille)
枚数 20種2枚ずつ40枚 22種32枚(絵札だけ2枚ずつ) 21種2枚ずつ42枚 21種2枚ずつ42枚
カード
(ランク順)
かっこう XV Cucco Pfeiff かっこう Gjöken かっこう Kuku
XIIII Hai Pigliato Bragon 哨兵 Werda 竜騎兵 Doragonen 軽騎兵 Husar
XIII Salta Miau Katten Husu
XII Gnao Hott Hesten 騎士 Kavall
宿屋 XI Fermatevi Alquanto 宿屋
(それぞれ1枚)
Einkerth Huset Värdchus
Auszahlt
XII 12 12
XI 11 11
X X 10 10
VIIII IX 9 9
VIII VIII 8 8
VII VII 7 7
VI VI 6 6
V V 5 5
IIII IV 4 4
III III 3 3
II II 2 2
I I 1 1
O Nulla 0 花輪 Kransen
バケツ Secchia Meno Di Nulla Täller 道化 Narren 花瓶 Blompottan
お面 Mascherone Manco Di Secchia ソーセージ Wurst ポット Potten Blaren
ライオン Leone コップ Glas フクロウ Uglen 道化 Harlekin
道化 Matto 道化 Narr
魔女 Hex

なお、この表のククカードのところに、ライオンを入れましたが、 前述したようにもともとは入っていなかったと思われるので、 この表に含めない方が適切かもしれません。 また、更に古くはバケツはアーチのイラストだったようです。 また、ニャブはチェスの駒のような木製のものとしてしばしば作られたらしいです。 形としては、ポーンの駒の底面を広げたような形で、底面にランクやイラストが描かれています。 ニャブのカードについて、かっこうのカードについては、Gjökenと書かれていますが、 驚くべきことにöの文字は現代のノルウェーではほとんど使われていません。 1990年ごろに、öの文字はøに置き換わりました。 したがって、1990年より昔にニャブが完成したと考えられます。

歴史的には、ゲームとしては16世紀にフランスで生まれ、 17世紀末にイタリアに伝わり専用のカードとしてククカードが成立し、18世紀初頭に広まったようです。 フランスで生まれたもゲームは「コキュ(cocu)」という名前だったそうです。今は滅んでしまっています。 「コキュ」は日本でも使われている通り、寝取られた男という意味ですが、元はかっこうという意味です。 かっこうが自分の卵を他の鳥に押し付けて孵化させる習性から、 嫌なものを押し付けるという意味でこの名前になったのでしょう。 寝取られた男という意味もこのかっこうの習性から来ているものです。 このコキュがイギリスに伝わって、専用のカードを使わないランターゴーラウンドになったと想像されます。 一方でククカードですが、18世紀前半にククカードはアルプスを越え、構成を変化させながら広がり始めます。 まずはスイスに伝わりました。そこからオーストリアとバイエルン地方に広まります。 ここで、仮面のカードは魔女の絵に変化しました。これがヘクセンです。 ソーセージのカードも追加されました。

そして18世紀中頃にスウェーデンに進みます。 デンマークのカードについては、なぜか資料がないようです。 この頃に、0が花輪になり、アーチが花瓶のイラストになったようです。 更に、(仮面から変化した)魔女は、顔にまで変化しました。 その後も図柄の変化は続き、哨兵は軽騎兵に、馬は騎士に、猫は豚に変化しました。 豚は猪の絵かもしれません。実際のカードを見ていないのでなんとも言えません。 そして同時にランクの順番も少し入れ替わりました。

日本に伝わったのは1978年に、ゲーム研究家として著名な草場純氏がククカードを手に取り、 1981年に、カードの研究者として知られる法政大学の江橋崇教授が草場氏にカンビオのルールを伝えたのが最初でしょう。 現在の日本では、この時草場氏が再構築したルールで広く遊ばれています。